取材協力:株式会社片山商店 – 片山様
取材対象:ジャパン・フード・セレクション受賞「 糀あまざけ 一夜雪 」
株式会社片山商店

明治三十八年(1905年)の創業から一世紀以上、旧亀田町袋津で商いをさせていただいております。 創業以来、昔ながらの「 糀へぎこも掛け製法 」 にこだわっています。近年の糀ブームで改めて日本人に深く関わり、美味しく健康に良いということを学ばせて頂いております。 また、五ツ星お米マイスターによる美味しい新潟県産米の販売、味噌や生糀、甘酒の製造販売を行っております。 契約栽培された良質な玄米を自家精米し、米糀(麹・こうじ)に加工し、お味噌や甘酒や塩麹を造っている当店は、この日本古来の優れた食文化を守り、日本食の素晴らしさを多くの食卓にお届けし、未来へ伝えてまいります。
三代目として事業継承の経緯

片山社長は3代目として事業を継がれたかと思いますが、その経緯を教えてください。



私が生まれた時から、両親の仕事場は自宅と同じ場所でした。商店なので、仕事をする場所と生活する場所が一緒でした。
小さい頃から自然と父母が働く姿を見て育ちまして、周りの人たちからは「 将来はお前が継ぐんだぞ 」と、まるで呪文のように言われ続けてきましたね。そうしているうちに、自然とこの仕事をやるのかなという考えが頭の中に出来上がってきました。
大学卒業後、お米業界で少し勉強させていただいていたのですが、父が早くに病気をしてしまい、急遽、帰ることになりました。その時はまだ仕事のことも十分に勉強できていない状態でしたが、とにかく帰らなければいけないということで戻ってきたんですよ。
そこからのスタートでしたね。自然とそういう流れになっていましたが、直接のきっかけは父の病気だったと思います。
発酵食品の知識習得への道のり



片山様は発酵食品の知識がゼロの状態からスタートされたとのことですが、どのように学ばれたのでしょうか?



当社は糀屋でして、明治38年に祖父が始めたのですが、糀の作り方など、そういったものは私自身まったく知識がありませんでした。教えてくれるだろうと思っていた父も病気をしてしまい、本当に何もない状態でした。
どうしようもないので醸造学の本、大学で使うような専門書を取り寄せて読みました。新潟県の加茂市には県の食品研究所があり、そちらに醸造の先生がいらっしゃるので、分からないことがあれば、そちらへ行って教えていただきました。そういったことを続けながら、失敗を重ねて学んできたというのが正直なところですね。
糀あまざけ一夜雪 – 開発経緯



今回ジャパンフードセレクションを受賞された「 糀あまざけ一夜雪 」は、3代目になる以前からあった商品なのか、それとも3代目になってからブラッシュアップされたものなのでしょうか?



ブラッシュアップですね。この糀甘酒は母が嫁いできてから売り始めた商品で、歴史は古く、半世紀ぐらいになります。甘酒は日持ちしません。
昔は良質な包装容器もなく、ビニール袋に入れて販売していた形でした。日持ちさせるために糖度を高くする必要があり、お砂糖を加えて提供していました。
私が会社を継いで甘酒作りを引き継いだのですが、作って翌日の朝、砂糖を入れる前の状態がとても美味しいんです。砂糖を入れる前のこの風味の良い甘酒を世の中に出したい、皆さんに知っていただきたいという思いはずっとありました。
ただ、それを実現する容器がありませんでした。ガラス瓶だと重たいですしね。ちょうど10年前にキャップ付きの容器が開発されまして、糀甘酒の販売にその容器を使いました。砂糖を入れる前のストレートタイプの甘酒も、この容器に入れれば流通させられるのではと思いました。
引き継いでから商品化まで20年近くかかっています。ストレートタイプの容器ができて、やっと安全にお届けできるようになりました。
糀作りの真髄と難しさ



糀作りの難しさについて教えてください。



日本人は糀と付き合ってきた民族ですからね。糀菌は食べても害がない、カビの中でも本当に唯一と言っていいほど安全なカビなんです。
ただ、カビを育てるにあたっては高温多湿の環境を作らなければいけないのですが、そういう環境は普通のカビも繁殖しやすいんです。
ですから、糀を育てる上で一番難しいことは、清潔さを保つことですね。とにかく作る環境を、作る人が常に綺麗でなければいけないんです。
手入れを良くして、かわいがって、大切に大切に育んでいかないと、良い糀にはなりません。



食べても害のないカビだけをどのように残すのでしょうか?



日本には種糀屋さんが4、5社あるんです。室町時代から続いている伝統的な会社もあります。そういった会社が食べても害のない糀菌の株をいくつか持っているんですよ。
人間にもいろいろな人種があるように、糀にも色々な種類があり、それぞれ得意不得意があります。
各メーカーがそういった安全な菌を取り揃えているわけです。私たちはそれを仕入れて培養をしているのですが、培養する環境が綺麗でなければいけません。特に糀を育てる「 室(むろ)」という場所の中を、とにかく綺麗に、常に清潔に保つということが一番大事ですね。
糀菌と悪いカビたちが競争しているわけですから、糀菌が負けないように綺麗にしなければいけません。ですから、糀を育てる上で一番難しいことは、清潔さを保つことですね。
新潟県産コシヒカリへのこだわり



新潟県のコシヒカリにこだわっていらっしゃいますが、その理由を教えていただけますか?



実は、糀の原料としてコシヒカリは適さないんです。コシヒカリは粘りが強いので、糀作りにおいて粘りというのは非常に難しいハードルなんです。そのため、普通は糀の原料としてコシヒカリは使いません。
当社が使用している米は、契約栽培で育てていただいているコシヒカリでして、食べるお米と同じ品質のものです。
普通の糀米は、主食用のお米を使うところもありますが、主食用の米をふるいにかけて網から落ちたものを使うところが結構多いですね。価格的に安いですから。
当社がコシヒカリこだわる理由は、最終的に糀そのものを食べるからです。糀自体の食感や風味、そういったものを重視した場合、やはり良い原料で作った方が良いものができるんですよ。
新潟県に住んでいますので、新潟県の農家の方々に頑張って農業を続けていただきたいという思いもあります。
契約で作っていただいているという形で、新潟のコシヒカリにこだわるのは、品質の面もありますし、農家の方々に頑張ってもらいたいという気持ちもあるんです。
ジャパンフードセレクション受賞の喜び





ジャパンフードセレクション受賞の率直な感想をお聞かせください。



本当にびっくりしました。今まで一般消費者からの意見というのは聞いたことがなく、第三者の評価を受けたことが一切ありませんでした。
そんな気持ちで応募したんですね。それで結果がグランプリ取れましたよと聞いて、本当にもう「ええええ!」というような感じでした。(笑)
地域とつながる講習会の取り組み



甘酒と味噌作りの講習会を開催されているとのことですが、今も地域的に実施されているのでしょうか?



コロナで休んでいました。それまでは「 まちゼミ 」といって、年に1回、町の商店街全体でゼミナールのようなものをやっていました。
消費者の方ともっとコミュニケーションを取っていかないといけないという話を妻としているので、またそういった活動はやっていくつもりでいます。
伝統の味を未来へ 、片山社長からのメッセージ



最後にメッセージをお願いします。



今回の受賞商品の一番の取扱店は、実は高島屋さんなんです。高島屋さんの中にある高島屋ファームという直営のセレクトショップで取り扱っていただいているんですが、そちらのバイヤーさんが初めて当社の「 糀あまざけ一夜雪 」を飲まれたときの言葉が非常に心に響いています。「 しみるわ〜!」と仰って。「 間違いなくこれは私のNo.1だわ 」と仰っていました。
皆さんには、スっと入ってくる素直な優しい甘さを感じてもらいたいですね。夏の暑いときは甘酒を凍らせてシャーベットにして飲むと最高です。
これは私が一番好きな飲み方なのですが、シャキッとするんです。そういった体験をしてほしいですね。
甘酒は離乳食にも使えるんですよ。また、病気をされて食べられなくなった方から「 この甘酒を飲んでこの夏を過ごせました。ありがとうございます 」というメッセージをいただくこともあります。
人生の最初から最後まで、食べることの慈しみを感じられる食べ物だなと感じています。甘酒はそういう飲み物なんですよ。皆さんに知ってほしいです!





