取材協力:株式会社霧しな
取材対象:ジャパン・フード・セレクション受賞「 開田高原産プレミアム蕎麦更科[白]」
株式会社霧しな
開田高原の自然の恵みとつくり手の想いが霧しなのそばをつくっています。霧しなは標高1200mにある天空のそば工場です。激しい寒暖差がもたらす霧、御嶽山から湧き出る柔らかな水。大自然の恩恵を受け、私たちは日々『本当においしいそばづくり』に挑んでいます。
開田高原産プレミアム蕎麦更科[白]
開田高原で会社を設立した理由
開田高原で会社を設立された理由を教えてください。
1992年8月の創業時、当社独自の製麺技術を活かして美味しい蕎麦を信州から全国にお届けしたいという思いがありました。
候補地を探す中で、開田高原に一目惚れしたんです。標高1200mという工場立地としては異例の場所ですが、良質な蕎麦を作るための環境を最優先に考えた結果でした。
開田高原の蕎麦作り
寒暖差など、開田高原の環境は蕎麦作りに適しているのでしょうか?
はい。当社の受賞商品に使用している「 開田早生(かいだわせ)」という在来種の蕎麦は、まさに開田高原の気候に適した品種なんです。
御嶽山から湧き出る軟水を使用することで、蕎麦本来の美味しさや香りを最大限に引き出すことができています。
開田高原ではよく霧が発生するそうですが、それは蕎麦作りにどのような影響があるのですか?
寒暖差で発生する霧は、蕎麦栽培にとても重要な役割を果たしています。朝からの急激な気温上昇を和らげてくれる効果があり、雨が少ない時期でも蕎麦の葉が霧から水分を吸収できるんです。そのため、霧の発生する地域は、美味しい蕎麦ができると言われているんですよ。
「 開田早生(かいだわせ)」は御社の商品全てに使用されているのですか?
全体のごく一部、数%の使用です。当社は山梨にある食品メーカー 株式会社はくばくのグループ会社として、同社に年間で約2,000トンの乾麺を供給するかたわら、「 霧しな信州産ブランド 」として年間約500トンのこだわりのそばを作っています。主に長野県産の蕎麦を使っていますが、その中でも「 開田早生(かいだわせ)」は、特別な想いを持って商品化しています。
蕎麦の生産量は国内産では北海道が1位、長野県が2位ですが、その中でも開田高原産は極めて希少と言えます。
その上「 開田早生(かいだわせ)」は天候の影響を受けやすく、豊作年でも収穫量は80トンほど。そのため、現地でしか味わえない”幻の蕎麦”となっているんです。
幻のお蕎麦が現地に行かないと食べられないのは残念ですね。そんな中でも開田早生の商品化を乾麺・半生麺・生麺と3種類製造されている理由を教えてください。
開田早生を使った製造は2008年、生麺から始まりました。その後、半生麺の生産も始まりました。農家との取り組みを深める中で商品を増やしていきました。
2021年に発売した「 開田高原産プレミアム 更科 白 」は、開田早生の原料確保が整い、また生産技術の向上により、食塩不使用、そば湯まで飲める乾麺として発売に至りました。
基本的な製法は3種とも同じで、本当に美味しい蕎麦を全国へお届けしたいとの思いでつくっています。
乾麺にすることで賞味期限が延び、利便性を兼ね備えた商品として全国展開が可能になりました。翌年にはコロナ禍の影響もあり、乾麺の需要が伸びたのではないかと考えています。
乾麺の開発とコロナ禍は、会社にとって転換期だったのでしょうか?
コロナ禍において、乾麺の利便性の良さとおいしさが認められ需要が伸びた事は、私たちにとって大きな喜びと、乾麺に対する認識を変えるものとなりました。
季節や天候によって蕎麦の製造に変化や影響はありますか?
蕎麦はとてもデリケートで、その日の外気温・工場内の湿度で生地の状態が変わります。生地温を一定に保つために、加水量・粘り時間・麺帯の流し方等、人の手と目で判断しています。また、そうした製造工程では、数値データを細かく記録し、日々の製造に役立てています。
乾麺の場合は14〜16時間かけて製造し、麺の形に整えて竿にかけて乾燥させるのですが、1時間ごとに検査を行うほど慎重に管理しています。
いつ食べても美味しいと言っていただけるよう、その日の状況に合わせて微調整を重ねながら製造を続けています。
商品の特徴
受賞された「 開田高原産プレミアム 更科 白」は、他の商品とどこが違うのでしょうか?
最大の特徴は、開田高原の在来種「 開田早生(かいだわせ)」を使用している点です。この品種は小粒で香り高いのが特徴なんです。製粉方法にもこだわりがあり、工業用の石臼(いしうす)を使って、時間をかけてじっくりと粉にしたものを使用しています。
石臼(いしうす)の摩擦熱で風味を損なうことがないため、香りの良さを最大限に引き出すことができます。この香りの豊かさが、この商品の大きな特徴ですね。
乾麺には一般的に保存性を高めるために食塩が使用されています。しかし、手打ちの生蕎麦には本来、塩は入っていません。
私たちは乾麺でありながら手打ち蕎麦のような香りと食感を理想として、あえて食塩不使用で製造しています。蕎麦本来の味わいを蕎麦湯まで楽しんでいただきたいという思いがあったんです。
洋風アレンジ
洋風アレンジなど、新しい食べ方の提案もされているそうですね?
開田高原産プレミアム蕎麦更科[白] のは極細麺で、当社特別製法の「 乱れづくり 」の太さとは異なるんです。蕎麦の風味はしっかりしているのに、更科の特性で様々な料理に合わせやすい特徴があります。
去年の夏には、オリーブオイルと塩だけで食べるカッペリーニ風の食べ方を提案しました。若い世代にも蕎麦の文化を伝えていきたいという思いから、このような新しいアレンジメニューも積極的に提案しています。
込められた想い
「 開田高原産プレミアム 更科 白 」にはどのような思いを込められているのですか?
この商品は、そば実の中心部分だけを粉にした「 更科粉 」を使用しています。そば本来の香りを存分に味わっていただきたいという思いを込めて、理想の蕎麦作りに挑戦しました。
実際に口元に運んでいただくと、その香りの違いを感じていただけると思います。開田高原との縁があって、地元の在来種「 開田早生(かいだわせ)」を使用し、当社の霧しなブランドの中でも最高級品として位置づけています。
ジャパンフードセレクション受賞
ジャパンフードセレクションでグランプリを受賞されて、どのような変化がありましたか?
販売面では、限定販売していた通信販売の売り上げが大きく伸びました。でも、それ以上に嬉しかったのは、「 開田早生(かいだわせ)」が木曽町の宝物、地元の宝物として認識されるようになったことです。
受賞をきっかけに「 開田早生を守る会 」が発足し、地域全体で「 開田早生(かいだわせ)」の復興と地域振興に取り組もうという動きがさらに活発になってきました。この受賞は、地域をつなぐきっかけにもなり、私たちにとって最高の宝物になりましたね。